卸売業でもECサイトの導入が進んできていますが、どのように始めたらいいかわからない方も少なくないでしょう。
卸売ECサイトを立ち上げると、場所を問わずに新規顧客の開拓ができるようになると同時に、既存顧客への販売促進も容易になります。また、デジタル化により、業務の効率化や顧客の利便性向上も見込めます。
製造業者(メーカー)が消費者へ製品を直接販売するDtoCが普及し始めた昨今、卸売ECは、卸売業者が新しい販売経路を確立するための手段となるでしょう。
ここでは、卸売ECサイトの概要やメリット、始め方や選ぶポイントなどを紹介します。卸ECサイトの開設に興味がある人はぜひ参考にしてください。
卸売ECサイトとは
卸売ECサイトとは、卸売業者が小売業者に向けて商品を販売する卸売ストアでBtoB ECの一つです。
卸売業者は、製造業者(メーカー)から商品を買い付けて、スーパーのような小売業者に販売する事業なので、企業間取引(BtoB)がメインです。そのため、大半の卸売ECサイトは、取引のある一部ユーザーしか利用できないクローズド型か、一般消費者などの非登録者も一部閲覧できる半クローズド型で構築されています。
卸売業のEC市場規模とEC化率の推移
経済産業省の「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」によると、卸売業のEC市場規模は新型コロナウイルスの影響が大きかった2020年を除いて、年々上昇傾向にあります。2021年の100兆6,059億円と2022年の112兆8,794億円を比較するとEC市場規模は12兆2,735億円も上昇しており、建設や製造など他の市場と比較してもトップクラスです。
また、卸売業のEC化率も市場規模が減少した2020年を含めて年々上昇しており、2020年の30.6%から2022年の34.9%の間で4.3%上昇しています。
このように、今までの推移を参考にすると、今後も卸売業のEC化は進んでいく傾向にあります。積極的にECサイト化を進めたほうが良いでしょう。
卸売ECサイトを始めるメリット
新規顧客の開拓
営業する余裕がなかったり、営業できる地域が限定されていたりする卸売業の人でも、ECサイトの活用で新規顧客の開拓が可能になります。顧客の地域を気にする必要がないECサイトでは、ウェブ広告の活用や、SEO対策などにより、インターネット上で営業をおこない、さまざまな顧客にアプローチできるからです。
新規顧客の開拓を目指す場合は、非登録者も一部閲覧できる半クローズド型のECサイトを構築しておきましょう。
既存顧客への販売促進
卸ECを利用すれば、ECサイトに訪れた顧客のうち何%が購入まで至ったか、どこの地域からの購入が多いかなど顧客の動向を正確に把握できるようになります。また、売上やアクセス数、リピート購入率の高い商品、閲覧履歴などのデータも取得できるため、より効果的な既存顧客への販売促進が容易になります。
既存顧客に新商品のPRやキャンペーンのお知らせを送ったり、購入した商品のデータから自動的におすすめの商品を表示したりすることも、卸売ECサイトなら可能です。
業務効率化
これまで電話やメール、FAXなどを利用して受発注をおこなっていた場合、ECサイトを活用すれば受発注作業がオンライン上で可能になるため、業務効率化が期待できます。
アナログ式な手法で人が受発注作業をしていると、人件費もかかり、読み・聞き取り間違いや入力ミスなどで受発注の間違いが発生しますが、デジタル化することで人件費が削減でき、受発注の正確性も高められるようになります。
受発注作業以外にも、AIによる問い合わせ対応やよくある質問をまとめたページを設置すれば、問い合わせ対応の時間も削減でき、他の作業に時間を利用できるようになります。
顧客の利便性向上
ECサイトを開設することで顧客の利便性を向上させることができます。メールや電話などの受注対応の場合、顧客は会社の営業時間内しか対応してもらえません。しかし、ECサイトなら24時間365日、自宅や会社以外でも顧客の都合の良いタイミングで注文や在庫・納期の確認などができるようになります。
また、顧客は直接店にいって現物を確認する手間も省け、仕入れ先の地域も気にする必要がなくなります。
卸売をしているショップ側も、機会損失を防げるため、最終的に売り上げの向上に繋がるでしょう。
低リスクでグローバル展開ができる
従来のアナログ式で卸売業をグローバル展開したい場合、通貨や物流などのインフラ、商品の紹介に出張が必要になるなど、さまざまな問題が発生する可能性があります。しかし、グローバル対応しているECサイトを活用すれば、通貨や物流などのインフラ問題も解決できるため、低リスクで海外にビジネス展開できます。
さらに、展開したい国や地域ですでに販売力を持っている小売業者とECサイトを通して契約できれば、初期費用やマーケティング、広告費用などが削減できます。
卸売ECサイトの始め方
卸売ECサイトは「自社オリジナル卸売ECサイトの構築」と「BtoBマーケットプレイス」の2種類の出店方法があります。どちらの出店方法を選択するかによって卸売ECサイトの始め方は変わってきます。ビジネススタイルに合っている方法でスタートしていきましょう。
自社オリジナル卸売ECサイトを構築する
まず、卸売ECサイトを自社で開発・構築するという方法があります。
自社オリジナル卸売ECサイトなら、自由度が高く、デザインを好きに設定できるため、競争が激しいEコマースのなかでも独自性をアピールできます。また、必要な機能などを自由に設定でき、都合の良いタイミングでECサイトを再構築することも可能です。配達や支払い方法などのルールは独自で設定でき、BtoBマーケットプレイスのように売上の一部を手数料として支払う必要がありません。
しかし、一からECサイトを開発・構築するには時間とコストがかかります。また、ECサイトの開設後は、運用、マーケティング、広告、配送の手配などもすべて自社でおこなう必要があるので、注意しましょう。
自社オリジナル卸売ECサイトを開設するなら、Shopifyがおすすめです。Shopifyはデザインや商品ページなどのカスタマイズ性に優れており、多言語・多通貨に対応しているため、グローバル展開を視野に入れている場合も最適なEコマースプラットフォームです。
また、Shopifyアプリの「Wholesale Club」を利用すれば、パスワードの設定で小売業の顧客のみに販売でき、卸売価格の提供や細かい価格設定が可能です。大量注文にも対応していて、クイック注文フォームや追加料金の設定など、卸売のBtoB ECに必要な機能が揃っています。
BtoBマーケットプレイスを利用する
BtoBマーケットプレイスとは、企業同士が取引できるオンラインストアのプラットフォームです。既存のBtoBマーケットプレイスにショップを出店し、商品を登録するだけで販売が可能です。AmazonビジネスやアスクルなどがBtoBマーケットプレイスに含まれます。
BtoBマーケットプレイスなら、一からECサイトを構築する必要がないため、労力や時間、コストを削減できます。
また、BtoBマーケットプレイス上で自社の商品を宣伝できるため、自社オリジナル卸売ECサイトより広告費用をかけずに、新規顧客を獲得できる可能性が高くなるでしょう。
セキュリティ面に力を入れているBtoBマーケットプレイスなら、個人情報保護やデータ侵害などに対する安全性が高まるため、顧客も安心して利用できます。
海外企業との取引を簡略化できる点もBtoBマーケットプレイスの魅力です。物流などのインフラや、通貨の問題などで壁を感じるクローバル展開ですが、グローバル対応しているBtoBマーケットプレイスを利用すれば参入しやすくなるでしょう。
一方で、自社オリジナル卸売ECサイトと比較すると、デザインや機能面などの自由度は低いため、競合他社との差別化を図るのは難しくなります。価格競争へ巻き込まれる可能性も少なくありません。
卸売ECに必要な機能
卸売ECにはBtoB ECならではの機能が必要になります。ここでは、どのような機能が卸売ECサイトに必要なのか紹介します。
顧客専用のサイト設定
卸売ECの場合、顧客のみしか閲覧や購入ができないクローズド型のECサイトが多いため、顧客専用のサイトを設定できる機能が必要になります。顧客ごとにサイト設定できれば、それぞれに合わせた商品価格や特典などの表示が可能になります。
新規顧客の開拓に力を入れるため、一時的にECサイトをオープンな状態にする場合も、都合の良いタイミングでクローズド型にできる機能がないと、後々不便です。
顧客ごとの商品・価格管理
卸売業の場合、顧客ごとに商品の種類や価格設定が違ったり、購入数によって価格が変動したりするケースが多くあります。そのため、顧客別に商品と価格の管理・設定ができる機能は必要不可欠です。
大量購入に対応できる注文設定
卸売ECの場合、ロット単位や一括注文など大量注文機能を搭載できるECサイトを選ぶ必要があります。消費者をターゲットにしているECサイトでは、1個単位から注文するのが普通ですが、卸売ECの場合はロット単位で注文したり、100個といったまとまった数の購入単位で一括購入したりすることが多いからです。
CSVファイルの読み込みや、商品IDからの検索などで商品を一括購入できる機能があると、顧客もよりスムーズに仕入れができます。
このような機能は通常のECサイトでは非対応の場合が多いので、対応しているECサイトを選ぶようにしましょう。
自動見積・請求書・入金消込設定
自動で見積作成や請求書作成をおこなってくれる機能があれば、卸売業者側も負担が少なくなり、顧客もより早く稟議をおこなえます。クレジットカード払いに対応している場合もありますが、日本の商文化としては、請求書を発行して後日まとめて支払う掛売りが一般的なため、自動で請求書を発行する機能はあったほうが良いでしょう。
また、後日入金されたときに、入金消込機能があれば、請求書と入金の照合作業をする必要がなくなり、作業効率向上に繋がります。ただし、入金消込機能が搭載されているECサイトは多くないので、最低でも見積書と請求書の自動作成機能があるECサイトを選ぶと良いでしょう。
卸売ECの構築サービスを選ぶ際のポイント4つ
1. 卸売ECサイトに必要な機能が揃っているか
卸売ECサイト構築サービスを選ぶ場合、顧客専用のサイト設定や顧客ごとの商品・価格設定、大量注文に対応している注文設定のような卸売向けの機能が揃っているか、必ず確認しましょう。
一般消費者を対象にしているECサイトでは、このような機能が備え付けられていないものも多いです。卸売業では顧客ごとに細かい設定ができないと、ECサイトを導入しても返って不便になってしまう可能性があります。
同業他社の導入実績や、卸売に対応している機能を事前に確認してから選びましょう。
2. カスタマイズの自由度が高いか
顧客別に販売している商品や価格、特典などさまざまなルールがある場合、カスタマイズの自由度が高くなければ対応が難しくなります。顧客別のルールを適用し、デジタル化できれば効率的にビジネスが進められるようになります。
さらに、将来的に事業拡大を視野に入れている場合、事業規模に合わせたECサイトの変更が必要です。顧客に合わせた設定以外に、事業拡大にも対応できるカスタマイズ性があるか確認しましょう。
3. サポート体制が充実しているか
卸売ECサイト構築サービスの機能面だけでなく、サポート体制も把握しておきましょう。一般的なECサイトと違って、細かな設定が必要になる卸売ECサイトでは、サポートが求められることも多くあります。
システム上のトラブルが発生した場合、営業時間が短かったり、返信が遅かったりすると解決に時間がかかってしまいます。商品販売の機会損失や顧客との信頼関係にも影響するので、すぐに問い合わせできるサポート体制が構築されたサービスを選ぶようにしましょう。
4. インボイス制度に対応しているか
インボイス制度に対応していない卸売ECサイトの場合、顧客の消費税負担が大きくなるため取引自体を停止される可能性が高くなります。
インボイス制度とは、2023年10月から開始した仕入税額控除の方式で、事業者が正確に消費税を収めることを目的とした制度です。インボイス制度に登録している業者は、顧客から求められた際にインボイス(適格請求書)を交付することが義務づけられています。
インボイス制度に対応していないサービスを利用してしまうと、インボイスを発行できないため、結局は対応しているサービスへの切り替え作業が必要になってしまいます。最初からインボイス制度に対応しているECサイト構築サービスを選択しましょう。
まとめ
従来のアナログ式よりも、ECサイトを導入したほうが、新規顧客の開拓や既存顧客への販売促進、業務効率向上などのメリットがあります。さらに、低リスクでグローバル展開できる点も卸売ECサイトの魅力の一つです。
卸売ECサイトは、一般消費者をターゲットにしたECサイトとは違い、顧客ごとに設定できる機能やカスタマイズの自由度、サポート体制、インボイス制度対応など選ぶ際のポイントが大切になってきます。
卸売ECサイトなら、カスタマイズ性に優れていて、卸売業に必要な機能が揃っているShopifyで開設してみると良いでしょう。
よくある質問
卸売ECサイトと通常のECストアの違いは?
卸売ECサイトと通常のECストアの違いは、顧客ターゲットです。
卸売ECサイトは小売業者向けなので、閲覧や購入に制限をもうける場合が多いです。一方で、通常のECサイトは一般消費者向けのため、誰でも利用できます。
卸ECサイトとは?
卸ECサイトとは、卸売業者が小売業者に向けて商品を販売するECサイトでBtoB ECの一つです。
卸ECサイトのメリットは?
卸ECサイトのメリットは5つあります。
- 新規顧客の開拓
- 既存顧客への販売促進
- 業務効率化
- 顧客の利便性向上
- 低リスクでグローバル展開ができる
文:Momo